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『珠玉のことばたち』
レムナント誌から
「母の愛」
ある若い男がいました。
彼は不良仲間の感化を受けて、しだいにぐれた生活をするようになりました。
彼の母親は、そうした彼の生活を見ながら、心を痛めていました。
彼はやがて、最も凶悪な犯罪を犯してしまいました。
人を殺したのです。
彼は警察につかまり、裁判にかけられました。
証拠は歴然としていました。
裁判で証人が、彼に不利な証言をするたびに、母のほうがより強く痛みを感じているようでした。
ついに、彼に対する有罪が確定し、死刑の宣告が下されました。
人々はその宣告に満足しました。けれども母は、たじろがず、赦しを懇願しました。
それは、受け入れませんでした。
ついに刑が執行され、そののち母は、遺体の下げ渡しを願いました。
それも赦されず、遺体は慣習に従って、監獄の庭に葬られました。
しばらくして母は亡くなりました。
しかし彼女の臨終の時、ただ一つ遺言を残しました。
彼女はその遺言の中で、自分の息子のかたわらに葬られることを願ったのです。
彼女は、自分が殺人犯の母と知られることも恥じませんでした。
どんなに出来の悪い子でも、どんなに大きな罪を犯した子でも、その子への愛情は変わらないのです。
レムナント誌から