飲み屋のおやじさんの話 その1
僕が、この釣りに没頭し始めたきっかけが「飲み屋のおやじ」。
もう10年以上も前の話。
その頃僕は、東急東横線の新丸子という小さい街に住んでいました。
彼女(現在のかみさん)と同棲するために越してきた街。
愛娘が生まれた街。
その店は駅前にかまえていました。
店の名は「三河屋」 と言います。
家族でお店をまかなっている、気軽な居酒屋さん。
僕らお金のないカップルには、手頃な感じとアットホームな雰囲気が良くて
頻繁に行っていた?
それとこのお店には、魚拓がいっぱい飾ってあったから。
店内には、50cmは軽く越える黒鯛の魚拓。
70cmはあるスズキの魚拓など。
ほとんどが家族の名前のもの。
店の片隅には1.8mくらいの短竿等数本。
いかにもフカセ釣りが好きでたまらないと言った感じの雰囲気。
僕ら二人は、お酒を飲みながら魚拓を見て楽しんでいました。
その頃僕ら二人の趣味も海釣りでデートといったら海で、
カサゴやウミタナゴ、ハゼなどを
とにかく何でも釣れればいいと行った感じの、
たんなるデート気分を味わう釣行でした。
店内に貼ってある魚拓を見ても、遠い物だと思っていたし、
そんなもん堤防から釣れるとも思っていなかったから。
それよりもこの居酒屋に通うのは、
釣りを中心に家族が、仲良くお店を経営している。
そのシーンが
これから創る僕ら家族の方向に見えていたし、憧れてもいた。
だんだん通っているうちに、うち解けてきて
おやじさんと雑談が出来るようになりました。
そして、魚拓のことから始まり、黒鯛釣りの事も教わりました。
それも短竿で釣る、フカセ釣り・落とし込み釣り。
それまで見よう見まねで落とし込み釣りっぽい釣り方はしていたものの
本格的な釣り方をやったことのない
僕らにとっては驚きの連続。
本牧釣り場や磯子釣り場しか行ったことのない僕らにとって
沖堤の話や堤防からのフカセ方の話など
おもしろくてたまらない。
おやじさんの釣り方は、いまはやりの落とし込みとは違い、
昔からのフカセ釣り。
イソメ類の虫エサかモエビを使用した釣法。
釣行時間は、商売の都合上お店が終わって
夜中の3時ぐらいから朝の7時ぐらいの間。
通っている堤防は、地続きの堤防で秘密のところらしい。
『うちのかあちゃんな、俺よりうめぇんだよ。 それもフクロイソメでよ。50cmをちっちゃい身体で釣り上げんだぜ
『俺達男はせっかちで行けない。かあちゃんのようによ、
ちゃ〜んと喰わせてから合わせればいいだよ。
そしたら黒鯛は逃げもできない。だろ!』
『家族で行ってよ、みんなで今日はどのタナか探るんだよ。
ほんで教えあってさ。釣るんさ。
黒鯛は、違うタナじゃ喰わないだから。』
『道具はな、自分で作るのが釣り師ってもんだよ。
シーズンが終わって、家で作るんだよ。
自分で作ったもんで黒鯛掛けてみな。
どんなにおもしろいか。』
『俺のは、みんな自分でこさえてんだ。』
『こんな短い竿で、あんな大きな黒鯛を釣るんだ。
俺たちゃ、漁師じゃない。釣りなんだよ。
おもしろく楽しく釣らなきゃおもしろくない』
まぁ、いろんな事を教わりました。針の結び方。
それも4種類ぐらい
夜釣りの時に目をつむっていても結べる方法。
竿の作り方。選び方などなど。
なによりも教わったのは、
釣りの楽しさ。味わい方。だったと思う。
飲み屋のおやじの話 その2
その後僕らもちゃんとした堤防に通うようになりました。
今は、もう行けない横浜の木材港。
(テトラを渡っていった先によい堤防がありました。)
木更津沖堤。川崎からフェリーで渡り、
帰りはビールを飲みながらまたフェリーで帰る。
そんな日々。
また仕事もやたら忙しくなりチョットご無沙汰気味にしていた。
おやじさんと会えば今度一緒に行きましょうって、いつも約束するのに
僕のスケジュールが合わなかったりしていた。
なんとか僕も何枚か釣り上げることが出来るようになってきた。
だんだん自信がついてきて、おやじさんと行っても
「足手まといにはないなだろうな。」って
思っていた頃。
突然。店が閉店してしまった。…
なんの前触れもなく。いやあったのかもしれないけど、
いつも遅くバイクで帰る僕には、気付かなかった。
お互い連絡先も知らないし。
狐につままれた感じ。
三河屋が入っていたビルはすぐに取り壊しになり、数ヶ月後新しいビルには本屋が入った。
常連のお客さんも知らないし、会わないし。
富岡堤防から見える朝日:
抜群にキレイです。
こんな時が
釣りしていて
一番気分がいい瞬間です。
あれ以来おやじさんとは、会っていません。
僕もいい加減いい年のおじさんになり
かみさんにわるいなぁ〜なんて思いながらも
ついつい夜中から釣行してしまう年頃になってしまった。
時々ぼ〜っと堤防の上で「三河屋」さんの事を思い出します。
おやじさん元気かなぁって。
オレあんなおじさんになりたかったんだよなって。