【 恵みを一つ 】

【 恵みを一つ 】

去年僕らの仲間が、新しく渡船業を始めた。

この不景気の中、新しい場所で渡船業を始めるなんてかなりの勇気と家族の大きな理解がいる。その荒波を乗り越えて、新しい船出は大変だと思った。

場所は、鳥浜のハナレ。船長は、竹内氏。東京湾黒鯛研究会所属。
2003年初頭、東京湾黒鯛研究会の総会時に発表して、正直凄いなと感心した。

ただ、場所が場所だけにトラブルは避けられないと思った。
当時、鳥浜ハナレと云えばパラダイスのような場所。
富岡堤防からも鳥浜パイプ堤からもヨダレが出るほど羨ましい近くて遠い場所。
通常全くといって言い程富岡堤防は、条件と時間と運に恵まれなければ黒鯛は釣れる物ではない。また、それなりの読みと研究、そして腕が、必須になってくる。僕にとってはこの母なる堤防での釣果は、まさに至極な事だ。
また鳥浜パイプ堤では、マナーの悪い釣り人が徘徊し、柵が出来たり壊したりというトラブル続き。おまけに廊下は、波が被ったりして満潮の時には、埋没するために非常に危険な場所でもある。毎年一件は、そう言ったことを知らないで気軽に釣りにきた経験浅い釣り人が、帰れずに海上保安庁を呼んだりして問題になっていた。

そんな世界からするとまさしくあの堤防は、パラダイス。
僕は、鳥浜ハナレに渡るためにゴムボートまで購入したほどだ。
  (結局未だに使ってない)

あの場所で、渡船業を始めるなんて・・・・
パラダイスが、降りてくるようなモノ。


ボートを漕いでしか行けない、限られた人のための世界を開放してくれるなんて素晴らしい。と正直に思った。
また
専有している限られた人からすると面白くないというのも頷ける。

僕は長いことこの界隈をホームにしてきたからあの辺りの釣り師のことは少しは解るし、気分的なことも推測が着く。

鳥浜ハナレ

渡船業を竹内さんが始めてから
案の定、というかやっぱりクレームがやってきた。

彼らは、この界隈をホームにしており、特にここ最近はハナレがメインフィールドだった。限られた釣り人のためのパラダイスのようなこの場所を、世間に公開する事へ非常な悲しみと怒りを持って抗議してきた。
彼(もしくは彼ら)の思いは、僕には痛いほどよく解る気がする。
『東京湾にもこういった近くて遠いパラダイスがあっていいではないか』と言うことだ。
地元の釣り師達が、マリーナが出来る以前から木材港より大切に守ってきた場所だ。
僕も、この釣りを始めて覚えた場所だから、『守りたい』という気持ちは非常に強い。


ただ、状況からしてこの場所を守り通せるのも時間の問題だ。 と思った。


遅かれ早かれこの場所は、暴かれる。
それは、どの釣り場だって一緒だ。釣れると聞くと群がるのが宿命。人が集まるところには、マナーは崩れ、ゴミが散らかり、場荒れは酷くなる。また、ビジネスが参入するのも宿命。絶対と言っていいほどの公式だ。


どうせ何れは、場荒れする場所ならば、営利目的だけの輩にわたしてパラダイスが嬲(なぶ)られるよりは、このヘチ釣りが好きでこの釣り場の大切さも理解し、マナーという部分に置いても深い理解のある釣り師ならば素敵なことではないかと、僕は思った。
2003年初頭の総会で、竹内さんが営業を開始すると聞いて、一番に賛同したのはそう言うわけだった。


多少のトラブルはあったモノの、竹内さんの人柄で多くのことは乗り越えてこられたようだ。彼の地道な活動が実を結び始めたのだ。

・黒鯛稚魚放流への募金集め。
・タグを打つ活動。
・釣り場のクリーン活動。などなど



先日、竹内さんからお電話を頂いた。

コレといったトラブルもなく、背中と背中を合わせるように双方を向いていた、地元派と竹内さん。

なんと地元派の若者達が、竹内さんが活動なさっている黒鯛稚魚放流への募金へ賛同して、協力してくれたというのだ。
素晴らしく、感動的な話だった。

心ある優しいヘチ師達に乾杯。釣り場を愛する人々へ乾杯。
地道な竹内さんに乾杯。コレこそが、黒鯛研究会だ。
ああ、美しい話だ。 感謝である。ここにも素敵な、めぐみが一つ。